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COVID-19診療における抗ウイルス薬治療の意義とTips

解説コラム
COVID-19診療における抗ウイルス薬治療の意義とTips

取材地:TKP名鉄名古屋駅カンファレンスセンター(愛知県名古屋市)2024年4月16日取材
※ 当該記事における肩書き・内容等の記載は、取材時点の情報です

本記事に記載されている製剤のご使用にあたっては各製剤の電子添文をご参照ください。

感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生

公立陶生病院
感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生

目次

感染拡大初期から現在まで ~COVID-19対応の変遷

当院は、愛知県の瀬戸市と尾張旭市、長久手市から構成される公立陶生病院組合が運営する総合病院であり、地域の基幹病院として近隣の医療機関と連携して医療を提供しています。COVID-19診療については、2020年2月のダイヤモンド・プリンセス号に始まる感染拡大当初から対応してきております。COVID-19感染拡大当初は情報が少なかったですが、私はエボラ出血熱が流行していた2014~2015年頃、国立国際医療研究センターに在籍しており、エボラ出血熱の疑いがある患者さんを診療した経験がありましたので、その経験も活かしつつ、他地域の医師との議論や発表されていた論文などから情報収集し、当院のCOVID-19対策方針や受け入れ体制を早期に構築いたしました。

その後は流行に合わせ、頻繁に院内マニュアルを改訂しながら診療にあたりました。特にデルタ株が猛威を振るった2021年夏は、保健所と医師会所属の医療機関と密に連携することで、地域で発生した重症化リスクのある患者さんをほぼ全例、発症当日に当院に移せるような体制を整え、速やかに中和抗体療法を実施することにより、地域の入院例や重症化例を大きく抑制することに成功しました。

オミクロン株に置き換わってからは、重症化リスクの低下が示唆されたものの、急激な感染拡大が起きたことで多数の外来患者への速やかな対応が求められました。一方で軽症~中等症Ⅰの患者さんに対しては内服できる抗ウイルス薬が承認されたこともあり、検査から診察、抗ウイルス薬処方までのフローを改めて整備し、陽性であれば速やかに経口抗ウイルス薬の服用を開始し、自宅で療養していただく仕組みを作りました。2022年夏の第7波ではさらなる感染者の増大がみられましたが、駐車場を活用しドライブスルー形式で検査と診療を効率よく実施することで、限られたマンパワーで最大多数の患者さんへの対応を実現しております。

感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生

公立陶生病院
感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生

そして5類に移行した現在では、COVID-19は「感染してはいけない病気」から「感染拡大させない病気」に変化したという認識に変わりました。つまり、感染者を出さないことより、感染者へきちんとした感染対策と治療を導入し、感染拡大させないために早期に発見してその後適切に対応することが重要であるということです。もちろんCOVID-19感染の疑いが少しでもあれば検査を実施するという姿勢は5類移行前から変わりません。発熱や気道症状がある患者さんに対しては、他の疾患を疑ったとしても安易にCOVID-19を否定せず、必ず検査をする体制としております。

国の特例措置終了後の変化、抗ウイルス薬治療の意義

2024年3月末日で国のCOVID-19の特例措置が終了となり、医療費の公費負担が撤廃されました。このことにより、金額を理由に抗ウイルス薬が必要な患者さんに薬が行き届かなくなることを危惧しています。確かに高額な抗ウイルス薬を前にして患者さんが躊躇し、医療費を気にして治療を断る場合があるかもしれません。しかしそれは患者さんの権利であり、我々医師は「患者さんの疾患に有効な薬剤があるから薬を処方する」べきであり、どんな疾患でも必要と判断したら費用負担を気にして処方を控えることはありません。COVID-19でも同じです。必要と判断して処方するのは医師の仕事ですが、薬剤が必要な患者さんに対して医師が“良かれと思って”勝手に費用を気にして処方を控えることにより、患者さんが有効な治療を受ける機会を逸してしまうのではと懸念します。

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第10.1版」では、軽症~中等症Ⅰの治療には抗ウイルス薬を優先して検討することが推奨されています(図11)。特に、重症化リスクの高い患者さんは、診断時は軽症でも後日病状が悪化することがあるので、発症後早期に抗ウイルス薬を投与することで入院や死亡を減らすことが期待されます1)。重症化リスクのある患者さんには、抗ウイルス薬を積極的に使用していくことが社会全体の利益となると考えます。

図1 重症度別マネジメントのまとめ

図1 重症度別マネジメントのまとめ

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第10.1版, p24

抗ウイルス薬治療対象者の見極め方

COVID-19診療では、個々の患者さんに応じて重症化リスクの高さを判断する必要があり、目の前の患者さんの状態や背景因子を加味して治療を決めることが重要です。年齢のほか、基礎疾患の有無やその治療内容も考慮します。当院で治療した患者さんでは、基礎疾患に対してステロイドや免疫抑制薬などを使用している方が重症化しやすくなる傾向がみられました。

さらに、ワクチン接種の有無やワクチンを最後に接種してから経過した期間も重要です。数理モデルにより変異株に対するワクチンの長期的な有効性を検討した研究では、4回接種後と3回接種後の有効性を比較しており、ワクチンが対応する株にかかわらず、有効性は経過した期間に応じて低下することが予測されました(図2)。ワクチンの接種回数が多くても最後の接種から長期間経っていれば効果が薄れ、重症化しやすい可能性があります。年齢、基礎疾患とその治療内容、ワクチンを最後に接種してからの期間、それら3つの因子に注目して重症化リスクを判断するのが良いと考えます(図3)。

もちろん現場の先生方の判断で、柔軟に抗ウイルス薬治療を行っても構わないと考えます。当院では抗ウイルス薬治療の対象者を考える上では、個々の患者さんの状態も重要です。実際に患者さんを診て、重症化や入院に至りそうだ、あるいは抗ウイルス薬を使ったほうが良さそうだという感覚が得られれば、抗ウイルス薬を使用するようにしています。抗ウイルス薬治療を行う意義は入院や死亡に至る重症化を防ぐことですから、リスクのある患者さんには積極的に抗ウイルス薬を使うという意識を持つことが大切です。

図2 投与後の経時的なワクチン有効性のモデル予測(海外データ)

図2 投与後の経時的なワクチン有効性のモデル予測(海外データ)

Alexandra B Hogan et al. Nat Commun. 2023; 14(1): 4325.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/

図3 当院におけるCOVID-19重症化リスクの判断基準 

図3 当院におけるCOVID-19重症化リスクの判断基準

公立陶生病院 感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生ご提供

抗ウイルス薬治療をスムースに行うためのTips
~説明のポイントと情報提供の重要性

抗ウイルス薬を使用する際は、患者さんご自身に重症化リスクがあることを説明した上で、「抗ウイルス薬を服用したほうがいいからお出ししますね」と話します。私自身は、薬を処方する際に金額の話を基本的にしていません。患者さんに説明した通り自分が必要だと考えるから処方するわけですので、それは他の薬を処方する際と何ら変わりません。COVID-19の診療では特別なことをしているような印象を与えるほうが、患者さんも身構えてしまうのではないかと思います。

患者さんに納得して抗ウイルス薬を使用していただくには、医師側から一方的に説得するのではなく、疑問点があれば質問していただくなど対話を重ねることも大切だと考えています。例えばワクチン未接種者は、ワクチンに対して批判的であると同時に、受診時に医師に批判されるのではないかと恐れている方が多いと感じます。そのような方にはワクチン未接種であることをまず肯定し、「昔と違って今はCOVID-19の薬があるから、ワクチンに頼らず治療ができるし早く治しましょうよ」と説明すると、素直に抗ウイルス薬を受け入れてくれる印象があります。

また、患者さん側が使用を躊躇するのは、情報不足が原因とも考えられます。COVID-19をただの風邪といえるのは健康な若い世代のみであり、高齢者や免疫不全者にはまだまだ重症化することのある疾患だと理解いただくことが重要です。COVID-19に関する情報を掲載したポスターを院内の待合室に掲示したりパンフレットにして事前に渡したりして、診察前に情報提供をすると、治療の必要性を納得していただきやすくなるかもしれません。

2023年5月に5類感染症へと位置づけが変わって以降、人々のCOVID-19への関心が薄れている印象があります。しかし、COVID-19流行以前の世界に戻ったわけではありません。感染拡大予防と重症化予防を念頭に置きつつ、通常の社会活動を行っていくという認識が重要だと思います。その上で、もっとも大切なことは「早期発見」と考えます(図4)。感染者が若く健康な方であれば、早期発見することで速やかな隔離を開始し、周囲への感染拡大を防ぐことができます。一方、重症化リスクが高い方であれば、早期発見は早期の重症化予防を念頭に置いた治療が可能です。COVID-19の重症化および死亡を防ぐという点で、抗ウイルス薬などによる積極的な治療は大きな意義があります。特例措置の終了など社会は変化していきますが、個々の患者さんに必要な医療を提供し、特に重症化しやすい方へは積極的に抗ウイルス薬を使うという意識を持つことが大切です。

図4 通常の社会活動を行うための適切な選択

図4 通常の社会活動を行うための適切な選択

公立陶生病院 感染症内科 主任部長 武藤 義和 先生ご提供

参考資料
1)厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第10.1版, p24
https://www.mhlw.go.jp/content/001248424.pdf
2)Alexandra B Hogan et al. Nat Commun. 2023; 14(1): 4325.

COVID-19診療における抗ウイルス薬治療の意義とTipsに関するPoint

  • 重症化リスクが高い軽症~中等症Ⅰの患者さんに抗ウイルス薬を投与することで入院や死亡を減らすことが期待される。重症化リスクのある患者さんには、抗ウイルス薬を積極的に使用していくことが重要。
  • 年齢や基礎疾患だけでなく、基礎疾患の治療内容、ワクチンを最後に接種してからの期間も考慮した上で重症化リスクを判断する。
  • 抗ウイルス薬の処方が必要だと判断した場合、患者さんに重症化リスクがあることを丁寧に説明し理解を得た上で、抗ウイルス薬を処方することを伝える。
  • COVID-19の最新情報や重症化リスク因子についての情報を、事前に患者さんに対して提供することで、治療に対する理解が得やすくなる可能性がある。