開発の経緯
開発の経緯
深在性真菌症は血液疾患領域、呼吸器内科領域及び外科・救急・集中治療領域をはじめ、幅広い領域の患者にみられる臓器又は全身性の感染症であり、早期診断・早期治療が求められる重篤な疾患です。深在性真菌症は診断が容易ではなく、発症すると予後が不良であるため、血液疾患領域では抗真菌薬の予防投与が海外の主要なガイドライン及び本邦のガイドラインでも推奨されています。また、増加傾向が注目されているムーコル症や、発症頻度は低いものの注意が必要な真菌感染症であるフサリウム症、コクシジオイデス症、クロモブラストミコーシス、菌腫では治療の選択肢が限られている状況でした。
ノクサフィル®錠100mg/点滴静注300mg(一般名:ポサコナゾール 以下、ノクサフィル®)は、Schering-Plough Corporation[現Merck Sharp & Dohme Corp., a subsidiary of Merck & Co., Inc., N.J., USA(MSD)]により創製、開発されたアゾール系抗真菌薬です。ノクサフィル®は、真菌細胞の細胞膜を構成するエルゴステロールの生合成を阻害し、各種酵母様真菌及び糸状菌に対して抗真菌作用を示します。
ノクサフィル®は、これまでに種々の製剤を用いて開発が進められ、2005年10月にEUで初めて経口懸濁液が承認された後、2013年11月及び2014年3月には錠剤及び静注用製剤がそれぞれ承認されました。2018年10月現在、経口懸濁液は73の国及び地域で、錠剤は51の国及び地域で、静注用製剤は42の国及び地域でそれぞれ承認されています。
経口懸濁液は医療上の必要性を満たすために開発されましたが、有効性を最大化させる血中濃度の達成のために十分量の食事か栄養補助剤とともに1日複数回服用の必要がありました。しかしながら急性期の免疫不全者や化学療法実施中の白血病患者は消化管障害が生じている場合も多く、経口懸濁液を食事とともに服用することが難しい場合も多くあります。そこで本邦でのノクサフィル®の開発は、食事の摂取に関係なく十分な曝露量を確保できる錠剤及び経口投与が困難な患者に対しても投与を可能とする静注用製剤について進めることとし、日本人健康被験者を対象とした第Ⅰ相試験及び日本人の深在性真菌症患者を対象とした国内第Ⅲ相試験が実施されました。経口懸濁液による海外臨床試験で得られた侵襲性真菌症の予防及び真菌症の治療に関する成績とともに製造販売承認申請を行い、「造血幹細胞移植患者又は好中球減少が予測される血液悪性腫瘍患者における深在性真菌症の予防」並びに「フサリウム症、ムーコル症、コクシジオイデス症、クロモブラストミコーシス、菌腫の治療」を適応症として錠剤及び静注用製剤が2020年1月に承認を取得しました。
発症予防に重点が置かれ、抗真菌薬の予防投与が行われている現在においても、特に血液疾患領域では侵襲性アスペルギルス症による感染症の発症例や死亡例が報告されており、他の真菌感染症と比較して発症頻度が高くなっています。その治療ニーズを満たすため、外国人の侵襲性アスペルギルス症患者を対象とした海外第Ⅲ相試験が実施され、日本人の深在性真菌症患者を対象とした国内第Ⅲ相試験の結果と併せて、製造販売承認事項一部変更申請を行い、「侵襲性アスペルギルス症の治療」が2021年9月に追加承認されました。