診療ガイドライン紹介 子宮頸がん
診療ガイドライン紹介 子宮頸がん
日経メディカルOnline『疾患解説 for GP』より転載
監修・青木大輔(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室教授)
子宮頸癌(疾患・臨床)
子宮頸癌の80%は「子宮頸部扁平上皮癌」で、残り20%は「子宮頸部腺癌」である。子宮頸部扁平上皮癌は、外陰部から腟壁、子宮頸部の腟と面する部位(子宮腟部)の粘膜の扁平上皮が異常増殖する癌であり、子宮頸部腺癌は、子宮頸部の奥側の粘膜を覆う頸管腺上皮の細胞(腺細胞)が増殖する癌である。
子宮頸部の重層扁平上皮と腺上皮の境界部分は移行帯と呼ばれるが、癌の最初の発生部位となる。子宮頸癌の大部分はHPV感染が引き金になる。
HPVの感染によって癌化が始まると、軽度異形成(前癌状態初期に相当)、中等度異形成へと進展し、高度異形成、上皮内癌を経て子宮頸癌に至る。HPVは性交経験のある女性の80%以上が感染を経験するといわれているが、その多くは宿主の免疫機構によって排除されることが明らかになっており、軽度異形成では3/4が、進行した中等度異形成でも1/2以上が正常な状態に戻ることが知られている。
HPVの型は100種類以上が同定されている。なかでも腫瘍形成能が高いHPVが14種類程度存在し、これらは「ハイリスクHPV」と呼ばれている。ハイリスクHPVのうちとりわけ腫瘍形成の能力の高いHPVが16型と18型である。ただし、これらのハイリスクHPVであっても、体から排除される、あるいは中等度異形成まで進展しても宿主の免疫機構により正常化するケースも多い。
HPVの感染から子宮頸癌にまで進展するためには、長期にHPVが持続感染することが必須であり、さらに喫煙習慣、度重なる分娩による子宮頸部の損傷、免疫力の低下などの要因が複合的に作用することが知られている。
子宮頸癌への進展過程は、軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)→高度異形成と子宮頸部上皮内癌(CIN3)→微小浸潤癌(子宮頸癌)というプロセスをたどる。感染から数年~十数年で子宮頸癌に至ると考えられるが、10年以上中等度異形成のままというケースも珍しくない。したがって、中等度異形成が発見されても、半年ごとに経過観察し、高度異形成または上皮内癌に進展した場合に治療を開始することが推奨されている。
子宮頸癌の新規罹患例数は年間約9,800人、子宮体癌が1万800人、どの部位かの情報がない子宮癌患者が約900人と推定される(地域癌登録全国推計値2008年)。死亡は子宮頸癌が約2700人、子宮体癌が約2700人、どの部位かの情報がない子宮癌が約1,300人となっている(人口動態統計2011年版)。
罹患数には「上皮内癌」は含まれていない。上皮内癌は転移の懸念もなく、治療すれば99%が治癒することから癌に分類しないスタイルが国際的に選択されている。しかし、多くでは自然治癒は期待できず、放置すれば浸潤癌へと移行することから、統計のなかに加えるべきとの声もある。この上皮内癌患者も約9000人と推定されるが、上皮内癌を入れると子宮頸癌の新規患者数は1万9000~2万人ということになる。近年、30歳代、40歳代で上皮内癌を含む子宮頸癌の増加傾向が認められる。
HPVワクチンが普及すれば、子宮頸癌の患者の減少が期待できる。HPVワクチン接種プログラムが実施されているオーストラリアなどでは、接種プログラム開始後に、高度異形成の罹患率の減少が報告されている。
前癌状態(異形成)の段階では自覚症状はほとんどないが、子宮頸癌が発症すると性交時に出血が観察される場合がある。進行すると頸部局所に腫瘤や潰瘍を形成し、出血がみられる。閉経前では、月経不順による出血の可能性があり、癌による出血の鑑別は困難である。
癌が骨盤壁に到達あるいは膀胱・尿管・直腸に侵入、リンパ節に転移すると、神経や血管を圧迫する。このために、痛み、発熱、血尿、血便、腰背痛、脚部の浮腫などが認められるようになる。
子宮頸癌の検査には、「子宮頸癌検診」時に行う「細胞診」と精密検査の「コルポスコープ診」、「組織診」がある。また、癌の広がりをみる検査として「内診」「直腸診」「超音波検査」「CT検査」「MRI検査」などがある。「膀胱鏡検査」「直腸鏡検査」「尿路検査」が追加されることもある。
(1)細胞診
子宮頸癌検診で行われている検査では、子宮頸腟部、子宮頸管を綿棒やブラシでこすり、細胞を採取してガラス板に塗布し、染色したうえで検鏡する。細胞や核の大きさ、形態の変化を観察する。日本では1次検査を日本臨床細胞学会が認定する細胞検査士が担当し、異常が認められた試料をやはり同学会が認定する細胞診断専門医が診断し、細胞診断が確定する。診断結果の報告は細胞診断から予想される病状を記載するベセスダシステム分類に基づいて行われている。
(2)コルポスコープ診(子宮頸部拡大鏡検査)
細胞診で異形成や癌の可能性が高いと判断された後にコルポスコープ(拡大鏡)で検査を行うことになる。この検査は正確な組織診を行うために欠かせない検査であり、子宮頸部の粘膜の細部の観察もできる。3%酢酸に浸した綿棒で子宮頸部をぬぐって、頸管腺分泌物を除去した後に、子宮頸部の異常所見を10倍程度に拡大する。異常所見の程度によって軽度異形成から子宮頸部上皮内癌、初期の微小浸潤癌あるいは浸潤癌の診断ができる。
(3)組織診
細胞診で癌が疑われた場合は、組織を切り取り、標本を作製したうえで、検鏡する。また入院して、子宮頸部円錐切除術という方法で組織を採取し、検査を実施することもある。
(4)超音波(エコー)検査
体の表面から超音波を当てて、画像を描出する検査とともに腟の中から超音波を当てて調べる方法もある。腫瘍の大きさや占拠範囲、腫瘍周囲の臓器との位置関係、別臓器、膀胱などの近接臓器への影響などを調べることができる。
(5)MRI、CT検査
癌の広がりをみる検査としては内診、直腸診、経腟超音波検査、CT検査、MRI検査がある。骨盤部位を中心とした検索のために最も広く用いられるのはMRI検査である。CTはより遠隔部位を一括して検査可能であり、肺や肝臓など遠隔臓器への転移の有無、リンパ節転移の診断、周囲臓器への浸潤の程度の診断に有効である。
子宮頸癌の治療は、癌のステージ、年齢、合併症の有無などによって細分化されており、患者の状態に応じた治療法の選択が行われている。
(1) CIN3、子宮頸部微小浸潤癌の治療
子宮頸部円錐切除術、単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術が検討される。
45歳未満、特に20歳代、30歳代の場合は診断と治療を兼ねて、子宮腟頸部円錐切除術を採用する。子宮頸癌の原因であるHPVの感染は続いているために、3年から10数年して癌が再発するリスクは、円錐手術を受ける必要がないと判定された人に比べて高くなることが知られている。
円錐切除にはいくつかの術式があり、切除断端を縫合しない術式では、10%弱の患者で術後の出血が起きることがあり、半分近くが再入院を余儀なくされる。
一方で切除断端を縫合する術式では、子宮頸管の変型・狭窄を起こしやすく5%の患者で月経血の流出障害、不妊症が認められる。若年の患者に妊娠の可能性を残すために必要な手術と位置づけられている。
広汎子宮摘出術では、膀胱機能を調整する膀胱神経を障害するために、蓄尿感が鈍麻し、自力排尿が困難になるなどの排尿障害が起こることがある。ただし最近は手術を縮小化し、膀胱神経を温存する術式が広がり、排尿障害は改善している。膀胱や直腸や尿管を広範囲に剥離するために、微細な障害が起こり、尿や便が膣に漏れ出る合併症も一定頻度で起こる。このほか、腸閉塞、足のリンパ浮腫、骨盤死腔炎などが術後合併症として知られている。
(2) ⅠA1期で脈管侵襲を認めない症例に対しては、骨盤リンパ節郭清を省略した単純子宮全摘出術が推奨されている。ⅠA1期の骨盤リンパ節への転移の頻度は0~1%と低いが脈管侵襲がある場合には、準広汎子宮全摘術+骨盤リンパ節郭清を行う場合もある。
(3) ⅠA2期では、子宮と周囲の組織(基靭帯)や腟の一部を切り取る準広汎子宮全摘術+骨盤リンパ節郭清、子宮を支える支持組織をできる限り子宮の遠部で切除する広汎子宮全摘出術を行う。術後再発リスクを評価したうえで同時化学放射線療法か放射線治療などの術後補助療法の選択を検討する。
再発のリスク要因としては、1)子宮頸部筋層の2分の1を超える深い浸潤がある、2)子宮周囲組織にはみ出している浸潤がある、3)リンパ節転移が陽性である、4)病巣が残存している可能性がある、などが挙げられる。
(4) ⅠB1・ⅡA1期では放射線治療、広汎子宮全摘出術のいずれかが選択される。
広汎子宮全摘出術を行うと、膀胱機能を調節する膀胱神経が障害されることから、蓄尿の感覚が鈍麻し、排尿障害を発症することも少なくない。現在、神経温存術式の採用など術式の改良の結果、以前よりも排尿障害の頻度は減少しているが、患者に対しては十分な説明を必要とする。
また、排便障害を発症することもある。術後、腸管蠕動運動機能を改善する薬を使用することが有効である。
膀胱、直腸、尿管を広範囲に剥離する広汎子宮全摘出術では、微細な障害が起こり、さらに骨盤リンパ節郭清後に生じる骨盤死腔の炎症も加わり、尿や便が腟に漏れ出るが合併症もまれにみられることがある。
骨盤リンパ節郭清によりリンパ流が阻害される。この結果、足の浮腫が10~30%程度発症することがある。リンパ節郭清の範囲を抑えて、リンパ浮腫の軽減予防がはかられている。
(5) ⅠB2・ⅡA2・ⅡB期では同時化学放射線療法、広汎子宮全摘出術が選択される。放射線療法は、1950年代から実施されていたが、リニアックの導入によって1970年代から標準化されている。現在では、外照射と腔内照射の組み合わせが行われている。放射線治療の合併症としては、治療開始直後に放射線宿酔という「つわり」のような症状が出ることがあるほか、下痢、吐き気、食欲低下などが起きる。また骨髄機能も抑制されるために血球減少などもみられる。時間の経過とともに進展する晩期障害、照射後数年を経て起こる放射線膀胱炎や直腸炎の発生も知られている。
(6) Ⅲ・ⅣA期では同時化学放射線療法が選択される。同時に化学併用療法併用放射線治療では、より高頻度の下痢や骨髄抑制が起こる。
(7) ⅣB期では全身化学療法、転移病巣の手術療法、放射線療法、化学療法、症状を緩和させるための放射線治療が症状に応じて行われる。
子宮頸癌の罹患にはHPVの感染が必要不可欠である、子宮頸癌罹患の予防を目的にHPV感染を防ぐワクチンが開発されている。国内では定期接種として小学校6年生から高校1年生相当の女子に対して癌接種が行われている。国内で承認されているHPVワクチン(子宮頸癌予防ワクチン)には「サーバリックス」と「ガーダシル」の2種類がある。
サーバリックスは、HPV16型と18型感染に起因する子宮頸癌(扁平上皮細胞癌、腺癌)及びその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍2及び3)の予防を適応とする「組換え沈降2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン」である。
ガーダシルは、HPV16型、18型に加え、6型、11型ウイルスの抗原を追加した「組換え沈降4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン」で、子宮頸癌(扁平上皮細胞癌、腺癌)およびその前駆病変(子宮頸部上皮内腫瘍1、2、3及び上皮内腺癌)、外陰上皮内腫瘍1、2、3および腟上皮内腫瘍1、2、3尖圭コンジローマを適応としている。
平成25年6月14日、厚生労働省は専門家会議の決定を踏まえて、定期接種としていたHPVワクチン(子宮頸癌予防ワクチン)の積極的な勧奨を一時中止するように自治体に勧告している。接種後に持続的な疼痛を訴えるケースが多数報告され、専門家会議が出した「ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛がヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン接種後に特異的にみられたことから、発生頻度などがより明らかになり、国民に適切な情報提供ができるまでの間、定期接種を積極的に推奨すべきではない」という結論を受けての措置。しかし定期接種から外れるわけではないので、接種希望者は自治体の補助を受けての接種は可能である。
医療機関は、接種希望者に対して「厚生労働省は、子宮頸癌予防ワクチンの接種を、積極的に勧めていない」という事実と「接種に当たっては有効性とリスクを理解したうえで受ける」旨の説明が求められている。
各都道府県に少なくとも1施設以上、これに対応できる医療施設が厚生労働省・日本医師会により設置され、副反応に対応できる体制が整備されている。ワクチン接種後、慢性的な疼痛、運動障害、高次脳機能障害などの副反応が出現した場合には、これらの施設に連絡し、患者紹介などの措置を取ることが推奨される。