PD-L1検査の臨床的意義
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等はこちらをご参照ください。
PD-L1検査の臨床的意義
はじめに
監修:
川崎医科大学 病理学 教授
森谷 卓也 先生
横浜市立大学附属市民総合医療センター 病理診断科 担当部長 診療教授
堀井 理絵 先生
近年、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場、また遺伝子パネル検査の保険収載に伴い、治療の適否や効果予測に関わる病理診断の重要性はますます高まっています。
そのような状況下で、2021年8月にキイトルーダ®の「PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」に対する効能又は効果の追加が厚生労働省より承認されました。キイトルーダ®はT細胞機能を負に制御するPD-L1及びPD-L2のPD-1への結合を阻害する抗体であり、PD-L1を発現するがん細胞や炎症細胞が多い症例に抗腫瘍作用が期待されます。乳癌症例※1への適応は、「コンパニオン診断薬※2」(PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」[Autostainer Link 48用])を用いた免疫染色標本のCombined Positive Score(CPS)によって判定されます。
CPSは、腫瘍細胞に加えて、腫瘍浸潤免疫細胞(リンパ球、マクロファージ)も評価対象として陽性細胞率を算出するスコアです。本邦では、2019年に頭頸部癌の治療方針を選択するために導入され、現在では食道扁平上皮癌(2次治療以降)、子宮頸癌、胃癌の治療方針の選択にも使用されています。肺癌において使用されている、腫瘍細胞のみを評価するTumor Proportion Score(TPS)とは異なることに注意が必要です。
今回、使用承認の根拠となった国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-355試験)では、CPS≧10の症例(転移・再発乳癌に対する全身性の前治療歴のない転移・再発又は局所進行性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の乳癌患者)において、プラセボ+化学療法群を対照としたキイトルーダ® +化学療法群の有効性成績が得られた1,2)ことから、実際の使用適応の判断にもCPS≧10をカットオフとする評価が用いられることとなりました※3。
以上のように、キイトルーダ®適応決定のためのPD-L1検査においては、CPSについて十分にご理解いただくことが非常に重要であると考え、本サイトではCPSの計算方法や評価対象細胞の詳細についてページを割いて説明させていただいています。それと同時に、検体の取り扱い(固定・包埋・薄切・染色など)についても精度管理が求められることを忘れてはなりません。本サイトが、多くの施設におけるPD-L1検査の標準化につながり、キイトルーダ®がPD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の治療に寄与することを希望します。
IHC:Immunohistochemistry(免疫組織化学法)
※1 ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法ではPD-L1検査は不要です。
※2 コンパニオン診断薬は、特定の医薬品の有効性や安全性を担保するために、その医薬品の投与に先立って必須の診断において使用されます。一方、コンプリメンタリー診断薬は、医薬品の有効性や安全性に対して参考になりますが、必須ではありません。
※3 詳細については、厚生労働省から発行されている『最適使用推進ガイドライン:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)乳癌』をご参照ください。なお、再発高リスクのトリプルネガティブ乳癌における術前・術後薬物療法ではPD-L1検査は不要です。
1)承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-355試験)
2)Cortes J et al. Lancet 2020; 396: 1817-1828
本試験はMSD社の資金提供により行われた。Javier CortesはMSD社から顧問料などを受領している。また、著者のうち、Zifang Guo、Jing Zhao、Vassiliki Karantzaは同社の社員である。その他の著者にMSD社より講演料、顧問料などを受領している者が含まれる。
5. 効能又は効果に関連する注意(抜粋)
〈PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌〉
5.20 PD-L1発現率(CPS)について、「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、PD-L1の発現が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いること。なお、承認された体外診断用医薬品又は医療機器に関する情報については、以下のウェブサイトから入手可能である:
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html
[17.1.26 参照]
手術不能又は再発乳癌に関する「効能又は効果」、「用法及び用量」
効能又は効果(抜粋)
PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
効能又は効果に関連する注意(抜粋)
〈PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌〉
5.20 PD-L1発現率(CPS)について、「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、PD-L1の発現が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いること。なお、承認された体外診断用医薬品又は医療機器に関する情報については、以下のウェブサイトから入手可能である:
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/cd/0001.html
[17.1.26参照]
用法及び用量(抜粋)
〈PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌〉
他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人には、ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)として、1回200mgを3週間間隔又は1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。
用法及び用量に関連する注意(抜粋)
〈PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌〉
7.7 併用する他の抗悪性腫瘍剤は「17. 臨床成績」の項の内容を熟知し、国内外の最新のガイドライン等を参考にした上で、選択すること。[17.1.26参照]
CPSの算出方法
PD-L1の発現状況の指標であるCPSは、PD-L1を発現しているがん細胞及びリンパ球やマクロファージといった免疫細胞をカウントし、その数をがん細胞の総数で除し100を乗じることで算出されます。CPSはTPSと異なり、浸潤癌巣で判定します。
PD-L1検査の臨床的意義
- 効果予測因子になり得る
PD-L1発現がキイトルーダ®の効果予測因子になり得る1)。 - 治療選択に役立つ
PD-L1発現率(CPS:Combined Positive Score)を確認することにより、治療選択ができ、キイトルーダ®の適正使用に役立つ。
PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」(ASL48用)によるPD-L1検査のタイミング3)
PD-L1検査は、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の治療開始前に実施が考慮されます。
*PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」(ASL48用)によるPD-L1検査
キイトルーダ®の治療対象の判定基準3)
キイトルーダ®は、PD-L1検査を行いCPS≧10が確認されたホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の治療開始前に実施が考慮されます。
※:詳細については、厚生労働省から発行されている『最適使用推進ガイドライン:ペムブロリズマブ(遺伝子組換え)乳癌』をご参照ください。
KEYNOTE-355試験におけるトリプルネガティブ乳癌患者のPD-L1発現状況(CPSの分布)1)
CPS(Combined Positive Score)の算出手順3)
CPSの算出には、以下に示す計算式を用います。
CPSはTPSと異なり、浸潤癌巣で判定します。
計算式3,4)
※:CPSの評価において、分子あるいは分母に組み入れる細胞あるいは除外する細胞の種類については、こちらをご参照ください。
参考:TPS(Tumor Proportion Score)の計算式
Ⅳ期非小細胞肺癌におけるPD-L1検査では、TPSが指標として用いられており、腫瘍細胞のみが評価対象細胞となっています。
■トリプルネガティブ乳癌:国際共同臨床試験成績:国際共同第Ⅲ相試験<KEYNOTE-355試験2)>の概要
CPS評価においてPD-L1陽性細胞として加算すべき細胞
CPS計算式における分子および分母の組み入れ/除外基準3)
CPSの評価において、計算式の分子あるいは分母に組み入れる細胞あるいは除外する細胞の種類は以下の表に示す通りです。また、各種細胞におけるPD-L1の染色像については、こちらをご参照ください。
PD-L1陽性細胞の同定方法
PD-L1陽性細胞の同定方法
①弱拡大像にて切片全体を検鏡し、発色領域の有無を判断する。
②発色領域を20×の対物レンズを用いて拡大し、陽性細胞と陰性細胞を、腫瘍細胞と免疫細胞それぞれについて同定し、その数を記録する。
CPS算出の判定例
CPSの判定例(イメージ)3)
1 陽性細胞の分布が限局しているパターン
①染色陽性細胞が認められる領域におけるCPSを算出する。
②すべての腫瘍領域におけるCPSを算出する(染色陽性細胞が認められる領域が全体を占める割合を除する)。
2 陽性細胞が不均一に分布しているパターン
①陽性細胞数が等しくなるように腫瘍領域を複数の領域に分け、各領域におけるCPSを算出する。
②分けた領域数を考慮してCPSを算出する(本例は4領域に分けられている)。
3 陽性細胞が少ないものの、標本全体に均一に散在しているパターン
①染色陽性細胞がないように見える領域に、染色陽性細胞が間違いなくないことを適宜拡大して注意深く確認する。
②すべての染色領域を評価し、PD-L1陽性細胞数※を数える。
③染色領域、非染色領域を再び評価し、総腫瘍細胞(PD-L1陽性細胞および陰性細胞)数を数え、CPSを算出する。
引用文献
1)承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-355試験)
2)Cortes J et al. Lancet 2020; 396: 1817-1828
本試験はMSD社の資金提供により行われた。Javier CortesはMSD社から顧問料などを受領している。また、著者のうち、Zifang Guo、Jing Zhao、Vassiliki Karantzaは同社の社員である。その他の著者にMSD社より講演料、顧問料などを受領している者が含まれる。
3)PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」トリプルネガティブ乳癌染色結果判定マニュアル
4)PD-L1 IHC 22C3 pharmDx「ダコ」(Code No. SK006)電子添文