開発の経緯
開発の経緯
同種造血幹細胞移植(HSCT)患者は重度の免疫抑制状態にあるため、潜伏感染していたヒトサイトメガロウイルス(CMV)感染及びCMV感染症のリスクが高く、全身状態の悪化や死亡リスクの増加が懸念されます。HSCT後のCMV感染症の対策として先制治療が行われるようになってからは、CMV感染症自体の発現率は著しく低下しています。しかし、特にCMV抗体陽性同種HSCT患者ではCMV血症が確認される可能性が高く、CMV血症による全体的な死亡のリスクは依然として高いことから、HSCT患者でのCMV感染及び感染症の予防に有効かつ忍容性が良好な抗CMV薬の開発が望まれていました。
プレバイミス®錠240mg/点滴静注240mg(一般名:レテルモビル 以下、本剤)はAiCuris GmbH & Co. KGで創製され、同社及びBayer Healthcare AG、MSD株式会社、Merck Sharp & Dohme LLC, a subsidiary of Merck & Co., Inc., N.J., U.S.A.(MSD)により開発されたCMVターミナーゼ阻害剤です。
本剤は、錠剤/注射剤の両製剤による各種臨床試験が実施され、CMV抗体陽性の同種HSCT患者(日本人を含む)を対象とした第Ⅲ相国際共同試験(001試験)の結果に基づき、米国、カナダでは2017年11月に、欧州連合では2018年1月に製造販売承認を取得しました。
国内では第Ⅲ相国際共同試験(001試験)の結果を受けて、製造販売承認申請を行い、「同種造血幹細胞移植患者におけるサイトメガロウイルス感染症の発症抑制」を適応症とする承認を2018年3月に取得しました。
2023年8月には、本剤を移植後100日まで投与され、かつ移植後約100日以降もCMV感染/感染症のリスクが高いCMV抗体陽性の同種HSCT患者を対象に投与期間を移植後100日から200日に延長した第Ⅲ相国際共同試験(040試験)の結果に基づき、医薬品添付文書改訂相談に基づく電子添文改訂が行われました。
なお、本剤は2016年2月25日に、厚生労働大臣より「造血幹細胞移植患者におけるサイトメガロウイルス血症、サイトメガロウイルス感染症の発症抑制」を予定される効能又は効果として、希少疾病用医薬品に指定を受けています[指定番号(28薬)第374号]。
また、CMVは臓器移植後の感染症の原因ウイルスとしても知られており、CMV感染症としての直接的な影響に加えて、同種移植片拒絶や日和見感染などの間接的な影響1)が報告されていることからも、臓器移植患者においてCMV感染症の発症抑制は重要とされています。
海外では同種HSCT患者に引き続き、CMV抗体陽性ドナー(D+)から移植を受けた陰性レシピエント(R-)の成人腎移植患者を対象とした第Ⅲ相海外共同試験(002試験、日本を除く世界16ヵ国が参加)の結果に基づき、腎移植患者におけるCMV感染症の発症抑制の効能追加について、米国では2023年6月に、欧州では2023年11月に承認を取得しました。
国内では、CMV抗体陽性ドナー(D+)またはCMV抗体陽性レシピエント(R+)の日本人腎移植患者を対象とした第Ⅲ相国内試験(042試験)を実施し、第Ⅲ相海外共同試験(002試験)及び第Ⅲ相国内試験(042試験)の結果に基づき、承認事項一部変更承認申請を行いました。本邦での申請に際しては、腎移植と同様に他の臓器移植患者においてもCMV感染及び感染症の発症抑制薬の必要性が高いと考えられたことから、効能又は効果を腎移植に限定せず、2024年5月に「臓器移植におけるサイトメガロウイルス感染症の発症抑制」を適応症とする承認を取得しました。
1)Razonable RR, et al.: Clin Transplant. 2019; 33(9): e13512.