PAHのリスク評価
PAHのリスク評価
「ESC/ERS肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022」1)におけるPAHの経過観察及びリスク評価に関する推奨についてご紹介します。
- 経過観察に対して推奨される評価方法とタイミング
- 診断時、初期治療開始時のリスク評価表(ESC/ERSガイドライン:3層モデル)
- フォローアップ時のリスク評価表(ESC/ERSガイドライン:4層モデル)
- 実臨床における4層リスク評価ツールの予後予測評価(海外データ)
経過観察に対して推奨される評価方法とタイミング
「ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022」 1)では、PAHの経過観察に対して推奨される評価方法とタイミングが示されています。
- 評価のタイミングとして、治療前、治療変更後3〜6ヵ月、安定した状態で3〜6ヵ月ごと、臨床的悪化時が提案されており、それぞれのタイミングにおける評価方法の推奨を、緑色、黄色、橙色のセルで示しています。
- 緑色が「適応である」、黄色が「考慮されるべきである」、橙色が「考慮してもよい」となります。
- この表では、安定した状態であっても3〜6ヵ月ごとにWHO機能分類を含む医学的評価、6分間歩行試験、 NT-proBNPを含む血液検査、心電図、動脈血液ガス分析またはパルスオキシメーターによる評価を行うことが「適応である」とされています。
ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022
肺動脈性肺高血圧症の経過観察に対して推奨される評価方法とタイミング
診断時、初期治療開始時のリスク評価表(ESC/ERSガイドライン: 3層モデル)
「ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022」1)における、PAHの診断時、初期治療開始時に実施されるリスク評価表です。
- 初期のリスク評価は2015年版のガイドラインを踏襲した低、中等度、高リスクに分類する3層モデルが用いられています。
- 2015年版から変更された点は、心エコーと心臓MRIが独立した予後規定因子として加わったこと、中等度リスクの1年後推定死亡率が5~20%に、高リスクの1年後推定死亡率が20%以上に変更され、それに伴い各指標の基準値に変更が生じた点です。
- 2015年版では、中等度リスクの1年後推定死亡率は5~10%、高リスクは10%以上でしたが、その後に発表されたいくつかのレジストリーでこれらの患者群の1年後死亡率がより高いことが示唆され、今回の数値に変更されています。
ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022
肺動脈性肺高血圧症における総合的なリスク評価(3層モデル)
フォローアップ時のリスク評価表(ESC/ERSガイドライン:4層モデル)
「ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022」1)における、フォローアップ時に用いる4段階のリスク評価表です。
- WHO機能分類、6分間歩行距離、BNPまたはNT-proBNPを用いて予後評価を行います。
- 2015年版の3段階のリスク評価表の限界として、ほとんどの患者が中等度リスクに分類されてしまうという点がありました。
- 2022年版では、中等度リスクをさらに2つに分け、全部で4段階にすることで、従来のリスク評価表よりも適切な予後の評価ができるようにしています。
- この表は、COMPERAレジストリを基に作成された、COMPERA2.0リスク評価ツールとしてFrenchレジストリでもその妥当性が証明されました。
ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022
簡易4層リスク評価ツールの計算に使用する項目
実臨床における4層リスク評価ツールの予後予測評価(海外データ)
「ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022」1)における4層リスクモデルに基づきPAH患者を層別化したCOMPERAレジストリの解析によると、低リスク群の患者は生存率が有意に高く(p<0.0001、log rank検定)、5年生存率は82.8%でした。
References
1)Humbert M et al. Eur Heart J. 43(38), 3618(2022)